WASI 0.3とWebAssembly Component Model|Wasmが「普通の選択肢」になる2026年
目次
「WebAssemblyは未来の技術」と言われ続けてきましたが、2026年、いよいよその未来が現実になりつつあります。
WASI 0.3のリリースとComponent Modelの標準化により、Wasmは実験的な技術からプロダクション環境で使える実用的な選択肢へと変わろうとしています。
WebAssemblyの現在地
WebAssembly(Wasm)は、ブラウザ上でネイティブに近い速度でコードを実行するためのバイナリフォーマットとして始まりました。しかし現在は、ブラウザの外——サーバーサイド、エッジコンピューティング、IoTデバイス——での活用が急速に拡大しています。
Dockerの共同創業者Solomon Hykes氏の有名な発言を振り返ります。
「2008年にWasmとWASIがあったら、Dockerを作る必要はなかった」
この発言から数年、WASIの標準化が進み、その言葉が現実味を帯びてきました。
WASI 0.3 — ネイティブ非同期サポート
WASI(WebAssembly System Interface)は、Wasmモジュールがファイルシステム、ネットワーク、時計などのOS機能にアクセスするための標準インターフェースです。
WASI 0.3の最大の目玉はファーストクラスの非同期サポートです。
futureとstream型の導入
WASI 0.3では、WIT(WebAssembly Interface Types)に future<T> と stream<T> の型が導入されます。これにより、以下のことが可能になります。
- 非同期I/O操作をネイティブに表現
- ホストランタイムが待機中のコンポーネントをサスペンドし、他のコンポーネントの処理をスケジュール
- 複数のWasmコンポーネントが効率的にリソースを共有
なぜ非同期が重要なのか
WASI 0.2までは、非同期処理を行うために poll ベースの仕組みに頼る必要があり、効率が悪い上に開発体験も良くありませんでした。WASI 0.3のネイティブ非同期により、AxumやExpress、Flaskなどの主要なWebフレームワークをWASI上で自然に動かす道が開かれます。
Component Model — ポリグロット開発の実現
Component Modelは、WebAssemblyのもう一つの革新的な標準化です。
異なる言語間の直接連携
従来、異なるプログラミング言語で書かれたライブラリ同士を連携させるには、以下のいずれかが必要でした。
- ネットワーク呼び出し(HTTPやgRPCでマイクロサービス間通信)
- FFI(Foreign Function Interface、C ABIを介した関数呼び出し)
- プロセス間通信(パイプやソケットを使った通信)
Component Modelは、Wasmレベルで標準化されたインターフェースを通じて、異なる言語のモジュールが直接連携できる仕組みを提供します。
例えば、以下のような構成が実現可能になります。
- RustでWebフレームワークを書く
- Pythonで機械学習の推論パイプラインを書く
- GoでJSON処理のユーティリティを書く
- これらをネットワーク呼び出しなしに、単一のWasmアプリケーションとして組み合わせる
WIT(WebAssembly Interface Types)
Component Model間のインターフェースはWITで定義します。WITはIDL(Interface Definition Language)の一種で、以下のように記述します。
package example:image-processor;
interface processor {
record image {
width: u32,
height: u32,
data: list<u8>,
}
resize: func(img: image, new-width: u32, new-height: u32) -> image;
grayscale: func(img: image) -> image;
}
このインターフェースを満たすコンポーネントは、Rust、C、Go、Python、JavaScriptなど、どの言語で実装しても相互運用可能です。
コンテナの代替としてのWasm
Wasmがサーバーサイドで注目される最大の理由は、コンテナよりも軽量で高速な実行環境としての可能性です。
Wasmコンポーネント vs コンテナ
| 特徴 | コンテナ(Docker) | Wasmコンポーネント |
|---|---|---|
| 起動時間 | 数百ミリ秒〜数秒 | 数マイクロ秒〜数ミリ秒 |
| バイナリサイズ | 数十MB〜数GB | 数KB〜数MB |
| セキュリティ | カーネル共有(リスクあり) | サンドボックス(分離が強い) |
| ポータビリティ | OS/アーキテクチャ依存 | 完全にプラットフォーム非依存 |
| エコシステム | 非常に成熟 | 急速に成長中 |
特にエッジコンピューティングやサーバーレス環境では、Wasmの起動速度の優位性が活きます。Cloudflare Workers、Fastly Compute、Fermyonなどが既にWasmベースのエッジランタイムを提供しています。
すべてがWasmに置き換わるわけではない
ただし、すべてのコンテナワークロードがWasmに移行するわけではありません。
- データベースやステートフルなサービスは引き続きコンテナが主流
- 既存のLinuxエコシステム(apt、yumなど)に依存するアプリケーションはコンテナが適切
- 開発者のツールチェーンとデバッグ環境はコンテナの方が成熟
Wasmが最も力を発揮するのは、ステートレスな計算、プラグインシステム、エッジでの処理といった領域です。
フロントエンドでのWasm活用
サーバーサイドの話が多いですが、フロントエンドでもWasmの活用は着実に広がっています。
高パフォーマンス計算
画像処理、動画エンコード、暗号化などのCPU集約型処理をブラウザ上で高速に実行できます。Figma、Google Earth、Photoshop Web版などが代表的な事例です。
プラグインシステム
アプリケーションにユーザーが作ったプラグインを安全に実行させる仕組みとして、Wasmのサンドボックスが活用されています。Zed エディタやEnvoy Proxyが代表例です。
クロス言語移植
既存のC/C++/Rustのライブラリをブラウザ上で動かすために、Wasm経由で移植するケースも増えています。FFmpegのWasm版(ffmpeg.wasm)やSQLiteのWasm版がよく知られています。
WASI 1.0への道筋
WASI 0.3の非同期サポートが標準化されれば、WASI 1.0への道が大きく開かれます。WASI 1.0は「安定版」として、以下が期待されています。
- 主要WebフレームワークのWASI向けポートの本格化
- パッケージマネージャーとコンポーネントレジストリの標準化
- 開発者ツールチェーン(デバッガ、プロファイラ)の充実
WebAssemblyの世界に飛び込むなら、Wasmとの相性が最も良いRust言語から始めるのがおすすめです。
プログラミングRust 第2版
Rustの所有権、ライフタイム、トレイトなどの核心概念を徹底解説するオライリーの定番書。Wasm開発の基盤となるRust力を身につけられます。
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Rust×WebAssembly入門 ―ブラウザで動くRustプログラミング
RustからWasmへのコンパイル方法、wasm-bindgenの使い方、ブラウザとの連携まで。WASI対応のサーバーサイドWasm開発にも触れています。
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まとめ
2026年のWebAssemblyは、もはや実験的技術ではありません。
- WASI 0.3 のネイティブ非同期サポートで、Webフレームワークの移植が現実的に
- Component Model で異なる言語間のシームレスな連携が可能に
- コンテナの代替 として、エッジ・サーバーレス環境での採用が加速
- フロントエンド でも高パフォーマンス計算やプラグインシステムで定着
今すぐすべてのプロジェクトでWasmを使う必要はありませんが、「Wasmという選択肢がある」ことを知っておくことは、2026年の開発者にとって重要なリテラシーです。